ネットで「いのち」をつなぐ時代……<取材ノート⑧>
「死にたい」という人の悲痛な心の叫びの中には、もうひとつのメッセージが隠されている。それは、生き続けていくことが困難で、日々「つらい」状況に追い込まれている、という思いだ。
インターネットで交わされる「いのち」のコミュニケーションでも、「死にたい」と「つらい」という2つのメッセージが交換される。そのとき、「死にたい」と「つらい」のどちらのメッセージに共感するかによって、自殺幇助か自殺予防かの大きな分かれ目になる。自殺予防とインターネットに関する研究と実践を行ってきた田村毅・東京学芸大学教授は、そのように語った。
今回は田村教授の取材をふまえて、インターネットに関わる「いのち」のケアの現状についてレポートする。
インターネットの光と影
インターネットには、光と影の部分がある。影の部分として、すぐ思い浮かべるのは「ネット自殺」「ネット心中」として報道を賑わせた一連の事件である。
たとえば、1998年12月には「ドクターキリコ事件」があった。これは、東京都練馬区の29歳の主婦が立ち上げた「安楽死狂会」というホームページのコンテンツに、「ドクターキリコの診察室」という掲示板を設けたことが誘引した事件である。この掲示板で自殺や抗精神薬の相談にのっていたハンドルネーム「ドクターキリコ」が、自殺願望を持つ数人に青酸カリが入ったカプセルを送り委託・保管させる。飲んではいけないものだったが、その内のひとりが禁を破って服毒自殺し、それを知ったドクターキリコも後追い自殺をした。
その事件以来、自殺系サイトが注目されるようになる。
2003年には自殺系サイトで知り合った人たちが、集団で自殺をする「ネット心中」の連鎖も起きた。警察庁の統計によると、自殺系サイトで出合って自殺したケースは、2003(平成15)年「12件・34名」、2004年「19件・55名」、2005年には「34件・91名」と年々上昇の一途をたどっている。
そのような状況から2005年10月、電気通信事業団体によって「インターネット上の自殺予告事案への対応に関するガイドライン」が策定された。通信の秘密である発信者情報が警察に開示されることで、事前の防止措置がとられるようになったのである。
こういった影の部分の一方で、「インターネットによる心の癒し」という光の部分もある。自殺願望者や若者たちの生態を追究するジャーナリストのロブ@大月氏が管理する掲示板「自傷らーの館」には、自分の身体を傷つけずにいられない人たち、消えたいと思う人たちが、メールのやりとりによって救われるという事実を見て取れる。
「もう疲れちゃった、生きられないよ……」
「うまく生きなくてもいい、でも死んだらだめだよ」
「死なないで……生きて! そばにいてあげたい」
「死にたいほどつらい」という気持ちをわかってくれるサポートの温かいメッセージは、心の癒しとなり、いのちのケアにつながるのだ。
インターネットなら「死にたい」気持ちも語れる?
2006年10月に「東京 いのちの電話」では、誰にも相談できなくて困っている人や、死にたい思いで精神的な危機状態にある人の相談を、メールで対応する「インターネット相談」の試行を始めた。
4カ月が経過した時点での結果を見ると、相談者の年代は、20代・30代が全体の6割強を占めた。内容は人生や職場、精神の病気など多岐にわたるが、注目したいのは自殺志向に分類されるものが2割近くあったことだ。これは「電話相談」の2.5倍にもなる。
「死にたい」「もう生きていたくない」という胸の奥底にある気持ちは、たとえ顔が見えなくても言葉に出して言いにくいものだ。だが、文字ならば表現しやすいということだろうか。
独りで悩み苦しむ人たちのための「24時間眠らぬダイヤル」と言われる「電話相談」は、ネット時代の今でも確固たる意義と価値をもっているが、さらにパソコンや携帯が身近なツールになっている若者たちには、インターネットこそが「心」と「いのち」をつなぐ生命維持装置になっているのかもしれない。 (第2巻担当・斉藤弘子)
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